中山道広重美術館 Hiroshige Museum of Art, Ena

過去の展覧会 2023年度

Past Exhibitions FY2023

春季特別企画展「幕末明治の浮世絵百年 大江戸の賑わい」

前期:2023年4月6日(木)~5月7日(日)
後期:2023年5月11日(木)~6月18日(日)

 庶民文化が発展した江戸時代末期から、文明開化で華やぐ明治時代前期まで約100年。浮世絵は、最新の流行や時事を伝える大衆メディアとして激動の世相を映し出しました。
 江戸庶民の息抜きとなった、娯楽の発展に一役買ったのも浮世絵です。葛飾北斎や歌川広重の風景画に描かれた行楽地や名所、宿場町は、庶民の旅情をかき立てました。一方、歌川国貞(後の三代豊国)や歌川国芳は、役者絵、武者絵、相撲絵、美人画における巧みな人物描写で名をはせました。江戸っ子たちは、絵師の洒落っ気が込められた戯画に笑いながら浮世を謳歌します。
 開国で異文化が流入すると、浮世絵の画中には鉄道や馬車、人力車が行き交い、洋装の人々が闊歩します。幕末から活躍する月岡芳年は、武者絵や美人画から開化絵まで幅広いジャンルで筆をふるいました。明治から画業を開始した小林清親は、西洋の風景表現を取り入れた光線画で評判となります。美人画を得意とする揚州周延は、欧化政策の象徴となった鹿鳴館のきらびやかな世界を描き出しました。
 時代の変化に伴い、新しもの好きな庶民の関心事は瞬きする間もなく移り変わりました。時流に敏感な版元の発想、表現力豊かな絵師の筆遣い、彫師や摺師の卓越した技巧によって生み出された優品は、力強く躍動する大江戸の活況を今に伝えてくれます。絵師もジャンルもバラエティ豊かににぎわう幕末明治の浮世絵をお楽しみください。


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企画展「うきよえ“う”づくし」

2023年6月22日(木)~7月23日(日)

 海(うみ)、馬(うま)、牛(うし)など、“う”の付くものを集めた展覧会です。本展の中心となるのは、歌川広重の手になる「魚(うお)づくし」と呼ばれる揃物で、天保年間(1830-44)に制作されました。当館では天保初期に西村屋与八(永寿堂)から版行された11図と、天保後期に山田屋庄次郎から版行された9図の計20図を所蔵しており、写実的に描かれた魚類と植物の取り合わせが清々しいシリーズです。また、画面上部には狂歌が書き込まれているのも本揃物の特徴の一つで、広重と狂歌師たちとのつながりは先行研究によって指摘されています。浮世絵に描かれた“う”を、楽しみながら探してみてください。

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企画展「うたう浮世絵」

2023年7月27日(木)~8月27日(日)

 浮世絵には、名所名物を描いたものや美人を描いたものの他にも、説話、物語、芝居などを題材にした作品が多くあります。絵師たちは物語や芝居からイメージを膨らませ、登場人物の動きを印象的な構図で切り取りました。そのような作品は多くの人々の目を引き付け、書見や観劇の感動を追体験させたものでした。本展で主に出陳する歌川国芳画「木曽街道六十九次之内」は、物語や芝居を題材にした場面と宿場名を言葉遊びでひも付ける揃物です。その関連性を考えながら、描かれる物語や芝居の名場面をお楽しみください。
 また、狂歌が記された作品もご紹介します。歌川広重が手掛けた東海道物の一つに「狂歌入東海道」と呼称される「東海道五拾三次」があります。各図に旅中の心境やその地にひも付けた狂歌が添えられ、歌の解釈と共に作品の理解を深める楽しみがあります。それぞれに浮世絵の中で語られた物語、詠われた歌を読み解いていきます。

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特別展観「木曽海道六拾九次之内」

2023年8月31日(木)~10月1日(日)

 渓斎英泉(1791-1848)と歌川広重(1797-1858)による「木曽海道六拾九次之内」は、起点・日本橋と木曽街道(中山道の異称)の69宿を主題とする街道絵シリーズです。名所絵や街道絵などの風景画が浮世絵の一ジャンルとして発展した天保年間(1830-44)に制作され、長きにわたり出版され続けました。そのため、本シリーズの各図には、増し摺りに伴う複数のバリエーションや異版(変わり図)が存在します。恵那市の浮世絵収集家・田中春雄氏(1919-2012)が約30年の歳月をかけて収集した「木曽海道六拾九次之内」は121点に及び、豊富な“摺り違い”が特徴です。雲母摺や胡粉が施された図もあり、当時の浮世絵出版界の隆盛ぶりがうかがえます。
 本展では、田中コレクション「木曽海道六拾九次之内」から78点出品し、摺り違いの比較展示を行うほか、新規収蔵品5点をお披露目いたします。2人の絵師による中山道の叙情豊かな自然描写と共に、本物の実見でしか味わえない浮世絵木版画の技巧をお楽しみください。

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秋季特別企画展「広重翁ー晩年の画業と「写真(しょううつし)」」

前期:2023年10月5日(木)~11月5日(日)
後期:2023年11月9日(木)~12月10日(日)

 江戸時代後期を代表する浮世絵風景画の名手、歌川広重(1797-1858)。50代を迎えた嘉永年間(1848-54)に手掛けた絵手本『絵本手引草 初編』では、自序として「画は物のかたちを本とすなれば写真(しょううつし)をなして是に筆意を加ふる時は則(すなわち)画なり」と説いています。ここからは、対象の真を写し取る「写真」を基本とし、そこへ運筆の趣「筆意」を加えることで独自の画風に昇華していたことが分かります。広重は、自身のスケッチや先行作品の図柄をそのまま引用するのではなく、多彩な筆致や構図を大小さまざまな判型に合わせて駆使し、表現意図に即した景観へ再構成したのです。
 本展では、嘉永元年(1848)から数え62歳で没する安政5年(1858)までの約10年間を中心に、6冊の絵手本や「名所江戸百景」をはじめとする晩年の代表作を通して広重の作画姿勢に迫ります。風景画の第一人者として年功を積んだ広重翁による、老成円熟した筆遣いや画面構成の妙趣をお楽しみください。

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企画展「ぐるり上方名所めぐり」

2023年12月14日(木)~2024年1月21日(日)

 上方とは、天皇(上)の住まう方角・地方のこと。主に京や大坂を始めとする五幾内(山城国、和泉国、河内国、摂津国、大和国)を指し、広義には播磨国、丹波国、近江国も含みます。
 徳川の世となり、政治の中心は京から江戸へと移ります。しかし、古の風流を残しながらも町人によって繁栄した京の都は、依然として文化や経済において大きな影響力を持ち続けました。大坂は、水運により全国の農産物や海産物、名産品が集う商業都市として大きく発展。旅への関心が高まった江戸中期以降、伊勢神宮から少し足を延ばせば立ち寄ることができる上方は、観光地としても人気を集めました。その活況は、名所や名物、名跡を豊富な挿絵で紹介した名所図会に取り上げられ、浮世絵版画にも描かれています。
 本展では、歌川広重の手になる「京都名所之内」や「浪花名所図会」、瀟湘(しょうしょう)八景になぞらえて設定された近江八景など、見どころ満載の上方名所をご紹介します。

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企画展「吉村コレクションー日常を彩る美ー」

2024年1月25日(木)~2月25日(日)

 吉村コレクションは、2001年に恵那市出身の吉村トシ子氏(1920-2001)より寄贈された美術品コレクションと、寄付された資金により翌年に購入した浮世絵作品とで構成されています。吉村氏の旧蔵品は日本画、洋画、工芸品など多岐にわたり、その人柄をうかがわせるような優美で柔和な作品ばかりです。また、寄付金により購入した「名所江戸百景」と「六十余州名所図会」は、歌川広重が晩年に手掛けた代表作であり、今日においても当館の主要なコレクションの一つです。本展では、吉村コレクションから選りすぐりの優品をご紹介します。吉村氏が日常的に愛で楽しんだ作品群をお楽しみください。

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企画展「お江戸浮世絵プロデューサー」

2024年2月29日(木)~3月31日(日)

 浮世絵版画は、絵師、彫師、摺師の分業制により量産された商業出版物です。その企画から販売までの統括を行ったのは、浮世絵制作のプロデューサーともいえる版元(地本問屋)でした。叙情豊かな風景表現で知られる浮世絵師・歌川広重も、企画者である版元から依頼を受け、コンセプトや制作コストなどの意向に合わせて作画を手掛けました。その画中を注視すると、広重の落款だけでなく版元の印章も見付けることができます。
 本展では、出世作「東海道五拾三次之内」や最晩年の傑作「名所江戸百景」を通して、保永堂(竹内孫八)、錦橋堂(山田屋庄次郎)、紅英堂(蔦屋吉蔵)、魚屋栄吉など、広重の画業を支えた版元たちに注目します。そして、商品展開や販売戦略といった浮世絵出版流通の様相を探ります。

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