<あ行>
- 改印(あらためいん)
江戸時代後期、幕府の命により浮世絵の検閲制度ができました。検閲の証として版下絵に捺されるのが改印で、そのまま版木に彫られて摺り出されました。
- 一枚絵・一枚摺(いちまいえ・いちまいずり)
版本の挿絵に対し、単独で鑑賞されることを前提にした浮世絵版画のことで、最も普及した浮世絵の形式です。
- 浮絵(うきえ)
西洋絵画の遠近法を取り入れた浮世絵で、手前に描かれたものが浮き出ているように見えるため、このように呼ばれました。
- 浮世絵(うきよえ)
“うきよ”とは、憂世(辛いことが多く、憂えるべき世界(現世))という言葉が「どうせ憂世を生きなければならないのなら今を楽しく生きた方が良い(=浮世)」という意味に転じたもので、浮世の様子(人々の生活の様子や娯楽、風景など)を描いたものを浮世絵といいます。
- 歌川国芳(うたがわくによし)
寛政9~文久元年(1797-1861)江戸時代後期の代表的な浮世絵師。初代歌川豊国に師事しました。江戸の染物屋に生まれ、幼い頃から絵を好みました。武者絵を最も得意としましたが、役者絵、美人画、風景画、戯画など、実にさまざまな分野の錦絵を手掛けています。西洋画にも学び、そこから着想を得て翻案した作品は、デザイン的にも優れ豊かな独創性を持ちます。天保の改革に際しては、幕府を風刺した武者絵や、らくがきに見立てた役者似顔絵など、反骨精神にあふれながら戯画的要素を持った作品を制作しました。
- 歌川広重(うたがわひろしげ)
寛政9~安政5年(1797-1858)江戸時代後期の浮世絵師。本姓は安藤。定火消同心の子として生まれました。歌川豊広に学び、さまざまな分野に筆を染めましたが、風景画を得意とし、特に東海道をテーマとした街道絵を多数描いています。画面は叙情性にあふれ、さわやかな印象を与えます。また花鳥画の分野においても格調高く趣のある作品を遺しています。広重の作品は、印象派の画家やアール・ヌーヴォーの工芸作家などにも大きな衝撃とインスピレーションを与えました。葛飾北斎と共に、日本を代表する画家として現在も世界に知られています。
- 絵師(えし)
画家のこと。浮世絵版画では、版元の注文を受けて版下絵を制作します。
- 絵草子屋(えぞうしや)
企画、制作、販売を兼ねた地本問屋(絵草子問屋)に対し、販売を専門に小売を行う店のこと。
- 大首絵(おおくびえ)
役者や美人など人物の顔を大きくとらえて描いた浮世絵のこと。江戸中期以降流行しました。
- おもちゃ絵(おもちゃえ)
子どもたちの遊びのために作られた浮世絵で、切り抜いて組み立てたり、ゲームとして遊ぶことができたりするものもありました。
- 主版(おもはん)
版下絵を版木に貼り、墨の部分を彫り出した版のこと。校合摺りにも使用されます。
<か行>
- 花鳥画(かちょうが)
花と鳥、あるいは魚介、虫、植物などを描いた図の総称。古く中国絵画の中で成立し、日本でも好まれた伝統的画題のひとつです。浮世絵では同時代の文芸とも結びつき、また博物学の流行を背景に盛んに描かれました。
- 葛飾北斎(かつしかほくさい)
宝暦10~嘉永2年(1760-1849)江戸時代後期の浮世絵師。勝川春章門人でしたが勝川派を離れ寛政6年(1794)頃、琳派の絵師・二代目俵屋宗理を襲名しました。古今東西さまざまな流派を学び、多岐にわたるジャンルの作品を描きました。確かな描写力、そして見る者の意表を突くような構図、大胆な発想による表現は、従来の浮世絵には見られないもので、他の追随を許しません。風景画のシリーズ「富嶽三十六景」はあまりにも有名ですが、役者絵や美人画も描いています。この他肉筆画にも見るべきものが多く、また『北斎漫画』などの絵手本や『富嶽百景』のような絵本、戯作本の挿絵も手掛けています。
- 上方絵(かみがたえ)
江戸を中心に発展した浮世絵を江戸絵、東絵と呼ぶのに対して、京・大坂で制作された浮世絵を総称する言葉。江戸浮世絵とは画風にも違いがあり、似顔役者絵が多いことで知られます。
- 校合摺(きょうごうずり)
色指定を行い、また修正点をチェックするためにまず摺られる墨摺絵のことで、主版が用いられます。色指定された校合摺は版木に貼られて色版が製作されます。
- 渓斎英泉(けいさいえいせん)
寛政3~嘉永元年(1791-1848)江戸時代後期の浮世絵師。武士の家に生まれ、はじめ狩野白桂斎に学び、のち菊川英山の門人となりました。英山は可憐で可愛らしい美人が人気を得ましたが、英泉は師の影響から脱却し、“猫背猪首”といわれる独特の婀娜っぽい美人画で評判を取りました。また葛飾北斎とも親しく、その構築的で妙味のある画風に私淑しており、「東都花暦」、「江戸名所尽」などの優れた風景画も遺しています。戯作者としても活躍し、艶本や読本を執筆しました。
- 見当(けんとう)
多色摺版画で、色がずれないようにするため、すべての版木の同じ位置に彫りつけられる目印のこと。「見当をつける」などといった表現の語源になったものです。
<さ行>
- 死絵(しにえ)
主に人気の役者や戯作者、浮世絵師などが亡くなった時に追善のために出版された肖像画です。白または薄藍の装束で、顔が青白く描かれるのが典型的です。
- 春画・あぶな絵(しゅんが・あぶなえ)
どちらも好色的な浮世絵のことをいいますが、春画は性行為の描写が中心となっているのに対し、あぶな絵は女性の肌がちらりと見える、またはぎりぎり隠れて見えない、というような気をもたせる姿が描かれました。
- 初摺・後摺(しょずり・あとずり)
版木は、版を重ねるうちに摩耗したり欠損したりするなどして状態が悪化します。通常、初めのよい状態の版木で摺った版を初摺、摺り増ししたものを後摺と呼びます。後摺では、事情により版に変更を加えている場合もあります。
- 相撲絵(すもうえ)
力士を題材とした浮世絵で、力士の立ち姿や土俵入り、取組の様子が描かれています。
- 摺師(すりし)
彫師の彫った版木に着色し、紙に摺り出す職人のこと。仕上げまでのすべてを担当します。
- 摺物(すりもの)
大量生産された商業的なものではなく、少部数私的に制作され、仲間内で配られた木版画。採算性を度外視し、高級な材料を用い、手間を惜しまず制作した豪華な作品も多く作られました。
- 揃物(そろいもの)
あるテーマのもと複数枚の浮世絵をシリーズ化して出版したもの。全体の枚数によって、○枚揃という言い方をします。
<な行>
- 似顔(にがお)
役者絵の中でも、役者の顔や身体の特徴をとらえ、実物に似せて描いたもののこと。
- 肉筆画(にくひつが)
版画ではなく、絹または紙に筆で直接描かれた作品。浮世絵においては版画作品と区別する意味で用いられます。
- 錦絵(にしきえ)
浮世絵の中で最も発達した段階にある多色摺木版画。多いものでは10色以上もの色版を用いて制作された作品もあります。
<は行>
- 判型(はんけい)
判型は用紙の種類と裁断の仕方によって決まり、大判・中判・細判などと呼ばれます。コスト面ではもちろん、作品の趣向によっても使い分けられました。錦絵は大判が主流です。
- 版下絵(はんしたえ)
浮世絵版画の下絵のこと。墨一色で描かれます。
- 版元(はんもと)
出版元のこと。絵師に版下絵の制作を依頼し、彫師、摺師の仕事の監修から販売にいたるまでのすべてを統括します。
- 美人画(びじんが)
女性の姿や風俗を描いた浮世絵で、最も古く重要な主題の1つです。遊女を描いたものが主流ですが、江戸で評判の町娘なども描かれました。
- 風景画(ふうけいが)
江戸時代後期に発達した、名所や街道などの風景を描いた作品。
- ベロ藍(べろあい)
オランダを通して輸入された化学染料の青で、ベロリン藍の略称です。プルシアンブルーともいいます。
- 彫師(ほりし)
版下絵を版木に彫る職人で、多色摺の場合は色版も彫ります。
<ま行>
- 見立絵・やつし絵(みたてえ・やつしえ)
古典や謡曲などの題材を、当時の風俗で描き出し、置き換えの機智を楽しむ趣向の絵のこと。現在は見立絵という言葉を用いることが多いですが、本来は古典(雅)から当世(俗)への置き換えを「やつし」、ある物を別の物になぞらえたものを「見立」といいます。
- 武者絵(むしゃえ)
古典・故事などで活躍した武者の姿や合戦の場面を描いた作品で、有名なエピソードを描くのが一般的です。ただし、江戸幕府の禁令により、天正期以降の人物については実名を避けなければいけなくなりました。
<や行>
- 役者絵(やくしゃえ)
歌舞伎役者を描いた浮世絵。美人画と並んで浮世絵の最も重要な主題です。なお、広く歌舞伎に関する絵の総称としては「歌舞伎絵」という言葉があります。
<ら行>
<わ行>