マテウシュ・コウェク さまよう街

中山道広重美術館と日本美術技術博物館マンガ(ポーランド共和国クラクフ市)との初の共同事業として、同市を拠点に活躍するアーティスト、マテウシュ・コウェク(Mateusz Kołek)氏の作品を展示いたします。コウェク氏は、浮世絵に見られる明瞭な描線や広重作品の構図及び風景描写を巧みに取り入れつつ、それらを自身の独自のスタイルへと昇華させています。クラクフ市と東京の風景をテーマとし、時代や場所が交錯する独特の世界観で描かれた作品30点をお楽しみください。

会 期2025年6月19日(木曜日)から8月24日(日曜日)
休館日毎週月曜日(ただし7月21日、8月11日はのぞく)、8月12日(火曜日)、7月22日(火曜日)から24日(木曜日)
場 所展示室2(2階)
開館時間午前9時30分から午後5時(入館は午後4時30分まで)
※8月14日(木曜日)は恵那納涼夏祭りに合わせ午後8時まで開館
観覧料一般520円(420円) ※(  )内は20名以上の団体料金
▲同時開催の企画展「三代豊国と国芳の謎解き!木曽街道」と共通
▲18歳以下無料
▲障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名まで無料
▲毎週水曜日はフリーウエンズデー(観覧無料)
▲毎週金曜日はフリーフライデー(観覧無料)
関連イベント■アーティストトーク
 日時:8月10日(日曜日)
    午後1時30分から(60分程度)
 場所:展示室2(2階)

■ドローイングワークショップ
 日時:8月11日(月曜日・祝日)
    午後1時30分から90分程度
 場所:講座室(3F)
 定員:12名
    ※6月19日(木曜日)からお電話で参加予約を受け付けます。
     (定員に達し次第締め切り)

■ミュージアムナイト
 恵那駅周辺で開催される恵那納涼夏祭りに合わせ終日観覧無料、午後
 8時まで開館します。
 日時:8月14日(木曜日) ※入館は午後7時30分まで
主 催恵那市、恵那市教育委員会、公益財団法人中山道広重美術館、
日本美術技術博物館マンガ
協 力ポーランド広報文化センター、ポーランド投資・貿易庁

※本展は、「インスピレーションを与える文化2025/2026」プログラムの一環としてポーランド共和国文化・国家遺産省より助成金を受け実施されるものです。

開催によせて ― 日本美術技術博物館マンガより

「一人でいることは孤独であることを意味しない」――ポーランド人アーティスト、マテウシュ・コウェクは、スマートフォンを持たずに街を歩き回ることを好む。曰(いわ)く、価値があるのにテクノロジーのせいで見落とされてしまっているものを見出すには、携帯電話を脇に置いて自分自身と対話をすることが必要なのだ、と。一人きりでいることで、マテウシュはより優れた観察者となり、その街についての物語や情報、細かい物事を発見することに俄然集中できるのである。

混雑した街では実にいろいろな人に出会う。最初は誰もが無関係で見知らぬ者同士だが、人々を取り囲む環境が彼らを近づけ、知らず知らずのうちに相互の関係、交流が始まっていく…。街の観察者であるマテウシュは人ごみの中で何とも言えない親密さを感じる――誰もが孤独であり、同時に誰もが「一緒に孤独」なのだ、と。

マテウシュの鋭い色のコントラストが特徴的な現実離れした画風は、しばしばソビエトのSF映画やスラヴ神話、ポップカルチャーなど、互いにかけ離れたジャンルから採ったモチーフを組み合わせ、見る者に強烈な印象を与える。1980年代にポーランドで育ったマテウシュは、香港の賑やかな大都会の雰囲気に惹かれた。彼はウォン・カーウァイ映画や香港の現実を舞台にしたアニメ映画『攻殻機動隊』の根っからのファンだったのだ。極東の大都市を初めて訪れたことで、この熱狂はさらに深まった。

アジアの大都市はマテウシュを魅了する。彼にとってそれらは物語やキャラクター、デザインの着想の源であると同時に、もはや誰も名前を覚えていない神々を祀(まつ)った小さなほこら、市場での一瞬の光景、レストランのテーブル上にぶちまけられた小物、透明な袋に入った金魚、暗い通りを照らすネオンサイン、傘、マスク、猫――彼が熱心にイラストに織り込むごくごく小さな物語の宝庫でもある。こうしたものの多くを十把一絡げにして私たちはアジアを連想するが、マテウシュは西洋と東洋の文化要素を組み合わせた彼独自の描画手法で、それらを新たに私たち対して語り直してくれるのである。

マテウシュのイラストの多くには象徴的な建造物が描かれている。しかし香港のスカイラインであろうと、浅草寺であろうと、東京スカイツリーであろうと、クラクフ都下クシェミョンキのテレビ塔であろうと、それらは単なる背景でしかない。マテウシュにとって物語の主人公は常に人間なのである。たとえ目の前に広がるのがスマートフォンの画面に映し出されたポートビクトリアでの出来事の名残だけだとしても、結局のところ、それは人間についての物語であり、私たちが生きる時代についての物語であり、私たちの文明の状態についての物語なのだ。

作品紹介
Mateusz Kołek Shinjuku broken heart, 2022, ink, digital color
Mateusz Kołek Cat shop, 2022, ink, digital color
Mateusz Kołek  Piłsudski Bridge, 2021, ink, digital color
Mateusz Kołek  Jublilat, 2021, ink, digital color
作家紹介
Photo by Michał Lichtański

マテウシュ・コウェク(Mateusz Kołek, 1981年生)
イラストレーター、漫画家、壁画作家。「Newsweek」、「Gazeta Wyborcza」、「Duży Format」、「Wysokie Obcasy」、「Znak」、「Przekrój」、「Bluszcz」、「ESPN USA」、「Sports Illustrated」といった新聞・雑誌にイラストを提供している。2017年、自身の数ヶ月間の香港滞在を記録したシリーズ「ぼくが見たもの。でもスマートフォンは持たずに」シリーズを開始。このシリーズはさらに東京、クラクフの章が拡張された。また新型コロナウィルスによるパンデミック初期の経験を描いた作品は、2023年に香港の出版社ZtoryTellerからアルバム『Alone Together』として出版されている。クラクフ在住。