中山道広重美術館 Hiroshige Museum of Art, Ena

田中コレクション《木曽海道六拾九次之内》について

木曽街道画像

河渡

木曽街道画像

中津川

 《木曽海道六拾九次之内》は、2人の絵師の手による作品で構成されています。渓斎英泉(寛政2~嘉永元年/1790-1848)と歌川広重(寛政9~安政5年/1797-1858)、共に江戸後期に活躍した浮世絵師です。この揃物は木曽路をテーマとしており、いずれの図でも風景が描かれていますが、それぞれの図には2人の持ち味を見て取ることができます。

 木曽街道(=中山道の異称)の69の宿場に、旅の起点である日本橋を加えた70箇所を扱っており、この内中津川を描いた作品は、雨の景と晴天の景というまったく異なる図柄の2図が存在しているため、全体は71図となります。雨の景を描いた図は“雨の中津川”と通称されており、現存数が極めて少なく、当館コレクションの中でも特に貴重な一品です。
 当初このシリーズの刊行に着手したのは保永堂(竹内孫八)でした。保永堂は《木曽海道六拾九次》に先駆けること数年、広重の名を広く人口に膾炙せしめた《東海道五拾三次之内》を出版した版元です。シリーズの途中からは錦樹堂(伊勢屋利兵衛)が携わるようになり、保永堂との合版を経て錦樹堂の単独出版になりました。さらに、シリーズの完結後、版権は錦橋堂(山田屋庄次郎)へと移りました。
 複雑な版元の移行、そして絵師の交代を経て出版され続けた《木曽海道六拾九次之内》ですが、こうした経緯の背景に、版元と絵師のどのような事情があったのか詳らかではありません。しかし中山道の旅路から眺める景色は穏やかな情趣に満ち、江戸後期に数多く出版された風景画の中でも優れた作品の一つであるといえるでしょう。