歌川広重「冨士三十六景 駿河薩タ之海上」
歌川広重
「冨士三十六景 駿河薩タ之海上」
大判錦絵 安政6年(1859)
作品解説
広重の最晩年に描かれた《冨士三十六景》は、竪絵36枚で構成された揃物です。富士の霊峰を望む風景を、遠近を強調したドラマチックな構図と鮮やかな彩色で描き出します。
あたかも舟上に立つかのような視点から、駿河湾の風景が描かれています。手前には大きくうねった白波が立ち上がりますが、画面は自然の雄大さと優しさを感じさせます。一見して葛飾北斎の《冨嶽三十六景》「神奈川沖浪裏」を想起させる図であり、広重も強く意識していたものと考えられます。しかし類似したモティーフを配しているからこそ、2人の異なる個性を知ることができる作例だといえるでしょう。画面左で海にせり出す絶壁は薩埵山。遠方には白い富士山がそびえ、穏やかな海上を帆船が航行しています。