中山道広重美術館 Hiroshige Museum of Art, Ena

歌川広重 「不二三十六景 相模大山来迎谷」

歌川広重「不二三十六景 相模大山来迎谷」

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歌川広重
「不二三十六景 相模大山来迎谷」
中判錦絵 嘉永5年(1852) 頃

作品解説

広重が富士山をメーンテーマに制作した揃物《不二三十六景》の中の一枚です。中判横型の画面各図に、富士山の見える36ヶ所の景色を収めたシリーズです。
両側にそばだつ険しい懸崖は、丹沢山地の南東部に位置する大山の来迎谷です。江戸時代、ここは富士山と並び山岳信仰の対象とされてきました。右上には雨や海を司る神を祭った阿夫利神社の鳥居が見えます。本図は大山山頂付近からの景色を描いたものですが、作者である広重自身が目にしたであろう実景に、心象風景を重ね合わせた作品だといえます。岩壁の急峻さはことさらに強調されており、大山の厳かさを印象付けているようです。その谷間からは晩夏の青い空と、白雲をまとった雄大な富士の霊峰を望むことができ、大山と富士という2つの崇高な霊山の競演が、広重の手によってドラマチックに演出されています。